1月13日放送の「マツコの知らない世界」に、字幕翻訳者の戸田奈津子が出演し、映画字幕制作の知られざる裏側を明かした。
司会:マツコ・デラックス
ゲスト:戸田奈津子
戸田奈津子の知られざる人生
戸田:英語は好きだったんだけど、なんたってこの歳ですから、戦後の英語教育って活字だけで、会話とかヒアリングとかゼロ。30歳頃まで英語をヒトコトも喋ったことないですよ。
マツコ:え~
戸田:だって外国にも行ったことないし。そういう時代だもん。そのあと10年経って字幕に到達したんですよ。
マツコ:そうなんですか。でも、トム・クルーズの横にはなっちゃんがいるっていうね(笑)。トム・クルーズ来日の時の名物ですよ、あれは。
戸田:まあ本当に長いお付き合いですし、いい人なのよ。
マツコ:でも、1本やって「この人スゴい」ってなったら、ブワって仕事が来るんですか?
戸田:まあ、スゴいかどうかはわかりませんけど、字幕の翻訳している人って、当時もいまも10人なんですよ。それで食べてる人って。
マツコ:えっ、10人しかいないの?
戸田:で、10人で(海外から)入ってくる映画全部出来ちゃうわけ。だって、私、年間50本やったことあるもん。
マツコ:年間50本ってことは毎週1本やってるの?
戸田:そういうときもありました。
マツコ:奈津子スゴい!
意外すぎる映画字幕のウラ事情
戸田:われわれの仕事はお金の話をみんなお聞きになるんだけど、みんなすごく妄想を抱いてらして、1本やるとすごい翻訳料が出ると思ってらっしゃる。でも、全然そうじゃないの。原則でね。
「映画配給会社から仕事を請けギャラはキャリアに関係なく一律」のフリップ
マツコ:えっ、キャリアとか関係ないの? え~知らなかった。
戸田:アクションはセリフが少ないでしょ?
マツコ:その差もないんですか?
戸田:ギャラには関係ないのよ。
マツコ:えっ、文字数関係ないんだ! じゃあ、矢継ぎ早に喋ってるのとか来ると「チクショー」とか思うんですか?
戸田:ま、そういう意味では損よね(笑)。
マツコ:(笑)
戸田:昔は映画ってフィルムだったでしょ。1本できたら丸い缶に入ってて、「ハイ、出来ました」って(渡される)。画はいじれないじゃないですか、フィルムの場合は。でも、いまはフィルムないのよ。ご存知?いま映画ってフィルムじゃないのよ。
マツコ:えっ、フィルムないの?データで飛ばしてるの?知らなかった。
戸田:昔はフィルムで「ハイ、出来ました」ってなったら、映画として完成しちゃってるわけ。でも、いまは最後まで画をいじれる(編集できる)わけ。ギリギリまで。アメリカはできれば(完成すれば)翌日かけられる(上映できる)。でも、こっちは字幕の作業が1週間から10日は要るわけでしょ。向こうは(映画監督は)そんなこと考えてない。
そうすると日本は1月1日公開って前から決まってて、宣伝もバンバンしてんのに、映画が来ない。監督が最後までいじってるから。
マツコ:どうするの?
戸田:そういうときは「なんかちょうだい」って言うと、ほんの一部分、できたとこだけくれるわけですよ。間に合わないからそこからやるでしょ?すると、またそれが変わったりとか、セリフが増えたり減ったり……。それを最後までやるわけ。特にCGができてから本当に変わりました。あれまではフィルムで撮ってたんだもん。「スターウォーズ」で変わりましたね。
マツコ:(ダースベイダーのかぶりものをしたスタッフに向かって)お前らが変えたのか?
戸田:ジョージ・ルーカスですよ、この人たちは責任ない。
マツコ:ごめんな(笑)
これぞプロの技!字幕に隠されたテクニック!
戸田:字幕をいつもご覧になっててね、あんなにベラベラ英語を喋ってるのに、出てくる字幕って短いと思いません?
マツコ:はいはい。
戸田:てことは、直訳なんかしていないことはわかりますよね?あれ、もし直訳で出したら画面中字になっちゃう。だから読めるくらいに短くするわけね。
マツコ:それでも結構難しい作業ですよ。
戸田:難しい。字幕で一番特殊で難しい作業は長いものを短くすること。どれくらい短くするかというと、1秒間に3文字なら負担なく読めるという目安があるわけ。
「1秒あたりに出す文字は3~4文字以内」のフリップ
マツコ:1秒に3文字?
戸田:それですべてを計算して、そのセリフが何秒かによって何文字使えるかっていうのが出るわけ。それで訳していくんですよ。
マツコ:はぁ~
戸田:こう言っても全然わからないでしょ?現実のVTRを御覧ください。
「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」VTR
インディが昔イザコザがあった女性に協力を求めに来たシーン
【直訳の場合】
俺は俺のやり方でやった。あんたが気に入らなくても仕方がない。これからはお互いに助け合っていこう。
【戸田奈津子訳】
昔の事は水に流して力になってくれ
戸田:エッセンスを翻訳しているわけです。そうすると読めるようになる。
マツコ:「昔の事は水に流して」っていう言い方のほうがハリソン・フォードの人間性とか、味みたいなのが出て直訳よりもおもしろい。でも、これを1週間から10日でやんなきゃいけないの?(笑)
戸田:全部のセリフでやるわけです。
マツコ:絶対やりたくないわ、そんな仕事(笑)
戸田:理屈がわかったところでテストします。「I didn’t know that」、やさしいでしょ? 直訳は「そんなこと知らなかった」。
マツコ:これは直訳でいいじゃない(笑)
戸田:ところがね、「I didn’t know that」は2秒で言えちゃう
マツコ:2秒ってことは6文字か。
戸田:それでも多すぎる。3文字から4文字。
マツコ:「信じられない」?
戸田:ちょっと長いな。
マツコ:……わかんない・
戸田:私だったら「初耳だ」
マツコ:なるほど!
戸田:これでもいいわけよ。
マツコ:初耳っていう言葉がポンって浮かんでくる感性がないと……。
戸田:しかもとても短いでしょ?
マツコ:あ~、できない。これ本当に「初見だ」っていうことがわかるもんね。やっぱり、いままで(映画を見てて)意味がわからないまま終わっちゃったシーンとかありましたもんね、昔。
戸田:わからなければそれは字幕が悪かったってこと。責任は取らなきゃいけないんですけど……
マツコ:戸田さんのではそういうことはなかった(笑)
番組が厳選した戸田奈津子の名字幕
ターミネーター2
「Hasta la vista, Baby」
直訳→また会おうぜ、ベイビー
名字幕→地獄で会おうぜ、ベイビー
戸田:「地獄」を入れちゃったんですけど、こういうときは許してもらえる。
マツコ:「地獄」ってのがいいですね。ターミネーター自身も地獄に行くってことですもんね。
戸田:ルールには少し違反してますけど、ドラマとしてはいいと思います。
マツコ:いや、いいですよ。そんなに間違ってるわけじゃない。
戸田:ドラマとしては合ってると思う。そういう風にして作ったものでした。はい。
全く違う!字幕と吹き替え
戸田:何が一番違うかって言うと、字幕は「読みきれる字数に原文をはめ込む」、吹き替えは長くてもいいの。その代わり、唇に合った動きの音を入れなきゃいけない。だからまったく違う文章になる。
マツコ:吹き替えは吹き替えなりの難しさがあるのね。
「アナと雪の女王」Let it GOの場面 英語版と吹き替え版の違いVTR
戸田:原文の英語が出たでしょ?あれを直訳するとスゴい量のことを言っている。「Let it go」っていうのは「ありのままの」の「ありの」しか言えないわけ。(音節が)3つしかない。「Let it go」を2つ使って「ありのままの」ってやっと言えるわけ。
マツコ:はいはい。
戸田:でも本当はもっとたくさんのことを言っている。「ありのままの自分を表現しよう」っていうことも言っている。ですけど、日本語に、音符に乗っかるっていうルールがあるから、言い切れないんですよ。だから歌詞っていうのは本当に大変。
マツコ:本当に計算され尽くした映画だったんですね。